病気の解説

2012年02月19日

子供たちの慢性疲労症候群ーその2

子供の慢性疲労症候群―子供の登校拒否の原因の一つ
子供たちの慢性疲労症候群
(その2)
(その1)で子どもの慢性疲労症候群が、登校拒否児や虚弱児という事で捉えられており、体に異常が簡単には見つからないが、漢方では把握できることを述べました。
{(その1)の最後の文章}
しかしながら、実は日本にはもうひとつの医学体系があり、上記の原因不明の疾病にとり組んで、成果をあげているのをご存知の方がおられるかも知れない。それは、漢方医学の体系である。慢性疲労症候群の患者さん達に人参養栄湯を投与して元気になったと報告しているカネポウ病院の症例や、自律神経失調症に小建中湯を投与して成果があった報告や論文は、枚挙にいとまがないくらいある。
筆者の診療所での治療例をあげて、それに対する筆者の私見を述べることとする。
第一例
この症例は、一五歳の中学二年生の女の子で、身長一六〇センチ、体重四五キロの、ややほっそりとした娘さんである。当院受診の一年程前から膝等の関節痛と全身倦怠を訴え始めた。関節痛は、整形外科で成長痛ではないかと言われ、放置されていた。秋から冬にかけてと春から夏にかけての季節の変わり目に全身倦怠感が増強し、腹痛・頭痛が出現したため、週に二日位、学校を休んでいた。両親や先生方は登校拒否だと考えていたようである。当院受診し、関節の腫張や変形のないものの、リウマチ反応陽性故に若年型関節リウマチと診断した。治療は″証″に従って漢方薬の投与を始めたところ、関節痛もとれ、疲れにくくなった。五キロのマラソンも完走して、先生方からも元気になったと言われている。現在も服薬中である。
(この症例は、一九九二年八月、大阪で行なわれたツムラ漢方症例研究会で報告したものである。)
第二例
受診時、十二歳の中学生の女の子である。訴えは、タンパク尿と全身倦怠である。タンパク尿は早朝尿でも陽性なので、起立性タンパク尿とは考えられない。母親の観察では、半年程前より、学校から帰ってきては「しんどい」と言って、家でゴロゴロ横になっていることが多く、外に遊びに行かなくなったとのことである。
母親との話し合いで、漢方薬を試してみることとなった。というのは、大病院での腎臓の生検検査は危険もあるし、痛い目にあわなければならないが、漢方薬で全身倦怠がとれ、タンパク尿がなくなれば、痛い目にあわずにすむからである。
漢方薬を投与して、二週間後には全身倦怠もタンパク尿も消失し、学校から帰っても、外に遊びに行ったり、勉強したりするようになったので治療は終了した。その後、再発はしていないようである。
第三例
この患者は、受診時は高校二年生で、身長一七四センチ、体重六五キロで、アメリカンフットポールをやっているガチッとした立派な体格であった。
訴えは、体がダルくて疲れ易く、朝起きられないし、昼間も眠たくてしかたがなく、授業中はいつも居眠りをしているとのことであった。訴えと、立派な体格があまりにかけはなれて、チグハグなのにはおどろいた。
血液検査をしても特に大きな異常所見はなかったが、漢方上の所見があったので、漢方薬の投与を始めた。漢方薬の服用を始めてから、授業中に居眠りをしなくなったばかりか、朝も日覚めてスッと起きられるようになり、体も疲れにくくなり、フットボールにはげんでいるということだったので、治療を終了した。
第四例
この症例は、十八歳の予備校生。母親が、当院の漢方薬を服用していて、母親につれられて受診した。訴えは、胸がしめつけられるように苦しいということと、疲れ易いということと、すぐに下痢がちになるということであった。普通ならば、神経性の下痢症ということで、精神安定剤を投与して一件落着ということになるのだが、漢方薬を希望した。そこで、血液データも異常なく、漢方上の腹部所見もなかったので、受験勉強のストレスと疲労が溜まっていると考えられたので、補気剤を投与した。漢方薬を服用しだしてから、夜遅くまで勉強しても疲れにくくなり、下痢も、胸部不快感も消失し、無事に大学入学試験にも合格され、今は元気に東京の大学に下宿して通っているとのことである。疲れがたまったと感じられる時は、漢方薬を服用して、ひと晩グッスリ眠ると、翌日には、溜まった疲れもとれるので、喜んでいるとのことである。
第五例
三〇歳のOLの女性、風邪をひいたということで、受診した。年に、四、五回風邪をひくとのことである。問診して、診察してみると、典型的な慢性疲労症候群の患者さんであった。二、三年前より微熱がつづき、しょっちゅう喉が痛くなり、肩や体や足の関節と筋肉のはりと痛みがあり、しばしば頭痛がし、異常に眠たく、夕方になると疲れてグッタリとし、物忘れがはげしく、思考力が低下し、集中力に欠くようになったとのことである。先急後緩の原則の下に、まず風邪の治療をした。風邪がなおった後に漢方薬の服用をすすめた所、約一ヶ月後には、上記の症状のうちのほとんどが、軽くなってきたとのことなので、服用を続けるように指示した。半年後には、ほとんど症状がなくなり、廃薬したが、あんなによくひいていた風邪を、その後ほとんどひかなくなったとのことである。
これ等の症例で分かることは、はっきりと診断がつけられたのは、最初の若年型関節リウマチと、第五例目の慢性疲労症候群のケースの場合だけである。第二例目は、糸球体腎炎が考えられるが、生検検査、即ち腎臓の一部を針でとってきて、それを顕微鏡で調べるという検査をしていない故に、最終診断がつけられないまま、治癒(?)してしまっている。それは、西洋医学上の診断がなされなくとも、漢方医学上で″証″と呼ばれるものが決定され、随証治療がなされたからである。この″証″は、簡単に言えば、病気と、その病人の体質とが相まって、その人の身体に表現されたものを分類したものといってよいだろう。
このような、西洋医学と異なる、漢方という独自の医学体系では、昔から、慢性疲労症候群によく似た病気等は知られており、虚労病として分類されていたし、治療薬も知られていた訳で、以上のことは、言いかえれば、漢方医学の再評価と考えてもらってもよいと思う。
いずれにせよ、漢方は西洋医学で根治療法のない病気や、治療法の確立していない病気を、治しうる可能性があるということで、そのような病気の場合は、試してみる価値があると言える。その場合は、経験豊かな漢方医にかかられることをおすすめします。
最後に、漢方でいう″未病″について説明して、稿を終わりたいと思う。
この未病という概念は、病気の発病前の状態ということで、潜伏期という概念に近いけれども、もっと広い意味あいを持っている。自覚症状のない高血圧も、この未病の概念でとらえてよいと筆者は考えている。
健康でもなく、かといって病気を発病していない、いわゆるグズグズした状態を、未病と呼んでよいと考えている。だから、虚弱児や、一部の登校拒否児は、漢方でいう未病であり、この未病を治療しうるのは、漢方のみであり、逆に言えば、未病の治療こそ、漢方の理想としている治療なのだ、と伝統漢方医学は、主張している。
子供たちの慢性疲労症候群(その3) に続く

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