病気の解説

2011年03月19日

糖尿病のお話ー1

最近の糖尿病のお話( 1 )
 まず最初の重要な点は、「なぜ糖尿病(Ⅱ型糖尿病)が発生するのか?」という点です。簡単に言えば、カロリーの過剰摂取で、そのためにインシュリンを産生する膵臓のベータ細胞が疲弊して死んでゆくこと、並びにインシュリンの働きを阻害する TNF-α という物質が脂肪細胞から産生され、このためにインシュリンは血中に十分あるけれども、全身の細胞は血液中の糖(ブドウ糖)を取り込めない、従って血液中のブドウ糖が減らず、血糖値が下がらない、というものでした。
 この内容に間違いはないのですが、最近の現代生物学-医学が明らかにした進化論的観点は、大昔(木から降りた時代から縄文時代まで)では、絶えず食料不足のため飢餓に直面していたため、エネルギー節約遺伝子群があれば飢餓に直面しても生き残れるが、逆に現在の日本のように食料が豊富にあると、そのエネルギー節約遺伝子群は、反対に、糖尿病を引き起こす遺伝子群となってしまうというわけです。しかし、もう一歩踏み込んで考えますと、大事な点が抜けていることがわかります。
それは何かと申し上げますと、人が、猿から分かれたのは、500万年前で、そのときの我々の先祖が食べていた食事の内容は、果物、野菜、ナッツ、昆虫、魚、鳥、肉類、などであったわけです。三大栄養素で分類しますと、炭水化物、蛋白質、脂肪となるわけですが、現代人の食事の内容と比較しますと、現代人は、炭水化物を過剰に取りすぎているようです。これが糖尿病が多発する原因であるのではないかと、最近では考えられ始められています。この過剰の炭水化物の摂取という事は、約一万年前に人類が穀物生産を始めることにより引き起こされたものです。単位面積当たりの人口保持率は、牧畜よりも穀物栽培のほうが多いことは明白ですから、これが一万年前より人口増加に寄与してきたことは明らかです。しかしこの結果、この一万年では、炭水化物の多い食事に、我々の体が進化できずに適応できなかったため、糖尿病が発生するようになったというのは、中々説得力のある考えだと思いませんか?何しろ、穀物生産する前の499万年は、炭水化物の摂取量はそれほど多くはなかったでしょうから・・・。もちろん、戦後日本が豊かになって、食べ物があふれている現実も、関係しているのは明らかです。(戦争中の食療難の時代には、だから糖尿病を発症する患者が激減していたことが、知られています。)炭水化物は、例えば、「ボタ餅」ひとつをとっても美味しいもので、こういうものを好んで食べたがる人が、糖尿病になるのも事実です。さらに、ラーメン・ライスなる食事があり、よく考えて見ますと、これは、インシュリンを産生する膵臓のベータ細胞にどれだけ負担をかけているかを考えますと、恐ろしいものがあります。
 以上の議論から、糖尿病のコントロールに対して、重要な点が浮かび上がってきます。それは、できるだけデンプン質のものを減らして、蛋白質や脂肪でカロリーをとるという方法です。肉や魚の脂身は、脂溶性の発がん物質が蓄積されていますから、若い人たちには脂肪の摂取は控えるようにと指導していますが、50歳~60歳の人には、気にしないようにと指導しています。たとえ発がん物質を摂取したとしても、癌が発生するのは20年の潜伏期間後で、その前に寿命が来ているというわけです。
 もちろん、一日のカロリー摂取量は、きっちりと制限しなければいけませんが、糖尿病食の指導では、脂っこいものは避けるようにという指導があったはずで、(カロリーが、オーバーしやすいからですが・・・)以上の議論からは、反対の結論となります。脂身の多いステーキもO.K.ですし、マグロのトロもO.K.で、お寿司のシャリはNO.で、さしみはO.K.ということとなります。
 ずいぶん変わった食事指導ですが、理にかなったもので、このような食事を始めますと、いかに炭水化物が美味いものかがわかります。また、甘いチョコレートや飴なども、以前にましておいしく感じられます。つまり、「美味しいものには、“毒”がある」というわけです。酒好きの人は、酒で肝臓がやられ、タバコがやめられない人は、タバコで肺がやられるのと同じなわけです。糖尿病の人は、美味しい炭水化物でやられて、糖尿病になるというわけです。
 このような議論が行われるようになったのには、実は現代科学-医学の成果があります。それは、糖尿病の合併症が高血糖により引き起こされるという事実があることと、小腸で糖(ブドウ糖)の吸収を妨げると、血糖が高くなるのを抑えることができ、また小腸でのブドウ糖の吸収を抑えることのできる薬剤が開発され(武田製薬のべイスン、バイエル製薬のグルコバイがその薬です)その薬が処方できるようになったからです。
 ですから、上記のでんぷん制限食を取ったとしても、たとえば天ぷらを食べたときに、衣は小麦粉でできていますから、エビ天をたとえ食べたとしても、どうしてもでんぷんを取ってしまうので、完全にでんぷんを取らずにすむ食事は不可能です。ではどうすればよいのかということになります。そこで役に立つのが、糖吸収阻害薬を服用すればよいということになります。①でんぷん制限食をとり、②カロリーを制限し、③糖吸収阻害薬を服用すれば、難しい血糖コントロールが、実に簡単になります。糖尿病の方は、更に少量の血糖降下剤が必要となるでしょうが、以前ほど沢山は必要でなくなるものと推定されます。
 ところが、人間の体はそれほど単純ではありません。糖尿病の人や、その気 ( け )のある方は言うでしょう、「食欲がありすぎて困る。食事が美味しくて、いくらでも食べることができる。」と。
漢方では、「胃」に熱がある、という表現で、食欲の亢進状態を捉えています。糖尿の気のある人にはわかると思いますが、お腹が満腹なのに、まだ食べたいことが、しばしば経験されます。これを、「胃」に熱があると表現するのです。この熱は、私の知る限り、漢方薬以外では取れません。「白虎(加人参)湯」という漢方薬があり、これがその「胃」の熱をとる薬です。食欲が亢進したときに、一度試してみていただければ分かりますが、この薬を飲むと、不思議なことに、食欲の亢進がおさまります。ただしこの薬は強い薬ですから、服用し続けないようにしてください。
このような議論は、未だ出版された本ではあまり紹介されていないもので、一度試してみる価値があると思います。(京都の高尾病院の江部先生がそれについての本を書いておられるそうです。)
美味しい料理と、美味しいお酒(特にワイン)の誘惑は、アダムとイヴの誘惑に引けをとらないと思います。それがない人生は、色褪せたつまらない物だと思います。美食万歳!人生万歳!しかし、ちょっとだけ、節制を!

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